疾患について
認知症について
「物忘れ」だけではない変化に、家で向き合うために
1.認知症とは?
――加齢による物忘れとの違い
認知症は、脳の病気などが原因で、記憶・判断・理解・段取りといった力が少しずつ低下し、日常生活に支障が出てくる状態のことを指します。
よく「物忘れ」と言われますが、実際には物忘れだけでなく、生活のいろいろな場面で“いつものやり方”がうまくいかなくなっていきます。
低下する能力
年齢を重ねると誰でも物忘れは増えます。しかし「加齢による物忘れ」と「認知症による物忘れ」には違いがあります。
加齢による物忘れ
体験の一部を忘れる
昼ご飯に何を食べたか
思い出せない
ヒントがあれば
思い出せることが多い
認知症の物忘れ
体験そのものを忘れる
昼ご飯を食べたこと自体を
忘れて「食べていない」と言う
同じことを何度も
繰り返すことが増える
ただし、見分けは簡単ではありません。
「心配だな」と感じる変化が続く場合は、早めに医療機関で相談することが大切です。
早期に原因を調べることで、治療や支援が早く始められ、生活の崩れを防ぎやすくなります。
2.最初に気づきやすいサイン
――“生活のつまずき”として現れる症状
認知症の初期は、「本人がうまく言葉にできない」ことが多いです。
そのため、周囲が気づくサインは“生活のつまずき”として現れます。
よくみられる初期の
サイン
-
同じ話を何度もする、同じ質問を繰り返す
-
予定を忘れる、約束に来ない
-
物をしまった場所が分からず、探し回る
-
財布や通帳、鍵など大切な物が
見つからないと言う
-
買い物で同じ物を何度も買う、
支払いができない
-
料理の段取りが崩れる
(味付けが極端、火を消し忘れる)
-
以前できていた家事が急に難しくなる
-
運転でヒヤッとする場面が増える
-
怒りっぽくなる/疑い深くなる
(性格が変わったように見える)
特に「段取り」「お金」「火の管理」「運転」などは事故につながる可能性があるため、早めの対策が重要です。
事故につながる可能性があるもの
3.進行に伴う変化――周辺症状(BPSD)と体の不調も含めて
認知症では、記憶や判断力などの低下(中核症状)に加えて、気持ちや行動の変化が起きることがあります。
これを“周辺症状(BPSD)”と呼びます。
本人も家族も一番しんどくなりやすい部分です。
周辺症状(BPSD)の例
-
不安が強くなる、
落ち着かない
-
夕方になると
混乱しやすい
(夕暮れ症候群)
-
被害的になる
(「盗まれた」
「誰かが入った」
など)
-
怒りっぽくなる、
暴言が出る
-
昼夜逆転、徘徊
-
介護拒否
(入浴や着替えを
嫌がる)
-
幻覚(特に
レビー小体型で
見られやすい)
-
うつ状態、
意欲低下
大切なポイント
ここで大切なのは、BPSDは“わざと”ではないということです。
不安、混乱、体調不良、痛み、便秘、脱水、感染症、睡眠不足、環境の変化などが重なると、症状が強く出やすくなります。
つまり、“認知症の症状というより「困っているサイン」”として捉えると、対応が変わります。
症状が強く
出やすく
なるもの
-
不安
-
混乱
-
体調不良
-
痛み
-
便秘
-
脱水
-
感染症
-
睡眠不足
-
環境の
変化
4.本人・家族の困りごと
――介護だけではなく
「関係がしんどくなる」理由
認知症で苦しくなるのは、「できなくなること」だけではありません。
本人も家族も、気持ちがすれ違い、関係がしんどくなることがあります。
本人が抱えやすい
苦しさ
- 忘れることへの不安、恥ずかしさ
- 注意されるほど混乱する、怒りが出る
- できない自分を守るために言い訳が増える
- 自分の居場所がなくなる感覚(孤立感)
- 体の不調(痛み、便秘、睡眠障害)が言えない
家族や周囲が
抱えやすい苦しさ
- 同じことを何度も言うのでイライラしてしまう
- 盗られたと疑われ、傷つく
- 介護が生活を圧迫し、疲弊する
- 仕事との両立が難しい
- 事故が心配(火、転倒、徘徊、運転)
- 「どこまで介入していいか」迷う
- 相談相手がいない、家族だけで抱え込む
認知症は長期戦になりやすい病気です。
家族が頑張りすぎるほど共倒れのリスクが高くなります。
早めに支援チームを作っておくことが、本人にも家族にも大きな意味があります。
5.治療とケアの基本
――薬・環境調整・関わり方
(医療的処置も)
認知症の治療は、「完全に治す」よりも、進行をゆるやかにし、生活の安全と安心を守ることが中心になります。
薬(代表的な考え方)
認知症の種類によって薬の選択が変わります。 代表的には次のような薬が知られています。
ドネペジル
(商品名:
アリセプト)
メマンチン (メマリー)
リバスチグミン
(イクセロン
パッチ
など)
ガランタミン (レミニール)
これらは記憶や認知機能の低下をゆるやかにする目的で使われることがあります(効果の出方は個人差があります)。
また、周辺症状(BPSD)が強い場合には、不眠や不安、幻覚、興奮などに対して医師が慎重に薬を調整することがあります。
ただし高齢者では副作用(ふらつき、転倒、眠気など)が出やすいこともあり、必要最小限で行うのが基本です。
ケアの基本(薬より
大切なことも多い)
-
生活環境を
分かりやすくする (貼り紙、定位置、動線の整理)
-
否定せず、安心させる
言葉を増やす
(正しさより落ち着き)
-
体調を整える
(便秘、脱水、
感染症、痛みのケア)
-
睡眠と日中活動の
リズムを整える
-
できることを奪わず、
手伝い方を工夫する
認知症ケアは「本人を変える」より「環境を変える」ことが効果的な場面が多いです。
6.訪問看護でできる支援と在宅での意義
(まとめ)
認知症の在宅生活では、「安全」と「安心」をどう両立するかが鍵になります。
訪問看護は、医師の指示のもとで、看護師が自宅を訪問し、体調管理と生活支援、家族支援を行うサービスです。
訪問看護で
できる支援
- 体調観察(脱水、便秘、感染症、栄養状態、睡眠)
- 服薬管理(飲み忘れ、飲み間違い、薬の整理)
- BPSDの原因探し(不安、痛み、環境、睡眠の乱れなど)
- 転倒予防、事故予防(火、徘徊、運転の相談)
- 入浴・清潔ケアの支援
- 家族への助言(声かけ、対応、疲労の軽減)
- 医師、ケアマネ、介護サービスとの連携調整
- 緊急時の相談導線づくり
在宅で
訪問看護を
受ける意義
- 病院では見えない「生活の困りごと」を具体的に整えられる
- 体調悪化のサインを早く見つけ、入院や重症化を防ぎやすい
- 家族が抱え込まず、支える側も守れる
- 本人の「住み慣れた家で暮らしたい」を支えられる
まとめ
認知症は物忘れだけでなく、生活全体に影響する病気です。
初期のつまずきに早く気づき、治療とケアを始めることで、在宅生活を長く続けやすくなります。
家族だけで抱えず、訪問看護を含む支援チームで、安全と安心を整えていくことが大切です。